歯科コラム
厚生労働省により、令和4年に「無歯科医地区」についての調査が行われています。
「無歯科医地区」とは、文字通り「歯科医師が存在しない地域」、または歯科医師が非常に少ない地域を指します。
無歯科医地区で歯科診療を受けたいと考えたとしても、その地区に歯科医師はいないわけですから、どうしても遠くまで移動して治療を受ける必要があり、地区の住民にとって非常に大きな負担となります。
東京などの首都圏でなくても、人口の多い街に住む人にすれば「歯医者がない街なんて考えられない」と感じるかもしれませんが、この日本において実際に無歯科医地区は存在しているのです。特に、過疎地域や地方、山奥などの小さな町や村、離島などに多く見られます。
目次
無歯科医地区(歯科医師不足地域)の現状とは
令和4年時点で、日本全国には約10万人の歯科医がいます。
男性が77,854人で74%、女性が27,413人で26%で、人口10万人に対する歯科医数は84.2人です。
それほどの数がいるのであれば、十分足りているのではないか、むしろ飽和しているのではないか、と思われるかもしれません。
しかし、歯科医師の数は圧倒的に都市部に集中しており、地方や過疎地域では全く足りていないのが現状です。
都市に歯科医が集まる理由は様々ですが、主にそもそもの患者母数の少なさや生活の難しさなどが影響していると考えられます。
無歯科医地区では、以下のような問題が発生します。
歯科治療を受けるために長距離移動が必要
無歯科医地区に住んでいる人々は、最寄りの歯科医院までの移動に多大な時間と労力を要します。
特に高齢者にとっては、移動が困難で治療が受けられないというケースも少なくありません。
歯科治療時に遅れが出る
近場に歯科医院がない場合、定期的な検診のために歯科に足を運ぶことが難しく、気づいた時には歯に痛みが現れていたり、虫歯や歯周病がすでに進行しているというケースが多くなってしまいます。
結果的に健康への悪影響が大きいと言えます。
口腔ケアまで手がまわらない
定期的な歯科検診や口腔ケアを受けることができないと、虫歯や歯周病をきっかけとして、全身の健康にも悪影響を及ぼすことがあります。
特に高齢者にとっては、口腔ケアの不足が食事や生活の質に直接影響を与えることがあります。
無歯科医地区の原因
無歯科医地区は、数年前と比べて減少した地域も存在するものの、逆に増えてしまった地域も少なくありません。
その背景には、いくつかの要因があります。
歯科医師の都市集中
日本の歯科医師の傾向として、都市部にその数が集中しています。
地方や過疎地域で歯科医院を開業することにはリスクに対してメリットが少ないため、どうしても開業する歯科医院は少なめとなってしまいます。
特に過疎地域の場合、患者数の少なさによる経済的な理由から、歯科医院を開業し経営していくのは非常に難しいという状況です。
高齢化社会
高齢化が進む日本において、特に地方には高齢者が集中しやすく、歯科治療を必要とするケースが増えます。
しかしそれに対して歯科医師および歯科医院の数が少なく足りていません。
後継者不足
地方の歯科医院においては、経営者である歯科医師の高齢化も進んでおり、後継者が見つからないというケースが増えています。
そのため、歯科医院を続けることができず、やむを得ず閉院してしまうという流れです。
その結果、地域内の歯科医師数がさらに減少し、「無歯科医地区」が広がる要因となっています。
無歯科医地区の増減
令和元年と令和4年を比較して、無歯科医地区が増えた都道府県と減った都道府県を見ていきます。
無歯科医地区が増えた都道府県
岩手県、福島県、栃木県、新潟県、石川県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、京都府、和歌山県、鳥取県、山口県、
高知県、福岡県、熊本県、鹿児島県
無歯科医地区が減った都道府県
北海道、秋田県、茨城県、群馬県、富山県、福井県、山梨県、滋賀県、兵庫県、奈良県、島根県、岡山県、広島県、徳島県
愛媛県、佐賀県、大分県、沖縄県
無歯科医地区が現状維持の都道府県
青森県、宮城県、山形県、三重県、香川県、宮崎県
無歯科医地区がない都道府県
埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府
全体として極端に無歯科医地区が増えている、というわけではないのですが、今後歯科医の数が今よりももっと足りなくなった場合には、無歯科医地区の増加が深刻な問題になる可能性があります。
歯科医師は本当に不足しているのか?
日本の歯科医師の数は年々増加しています。にも関わらず、本当に歯科医師は不足しているのでしょうか?
歯科医師の数の推移と歯科国家試験の合格率などについて見ていきます。
歯科医師数の推移
日本の歯科医師数は増加し続けています。
厚生労働省の統計によると、歯科医師の数は1990年代以降急激に増加し、現在も増加の傾向は継続しています。
これは、歯科医師養成校の増加と、歯科医師免許を取得する人々の増加に起因しています。
しかし、増加した歯科医師の多くは都市部に集中しており、地域間での偏りが問題とり無歯科医地区の問題に繋がっています。
歯科医師国家試験の合格率・合格者数
歯科医師国家試験の合格率や合格者数を見ると、減少傾向が見られないこともないのですが、概ね誤差の範囲内で安定した数字が続いています。
歯科医師を目指す学生の減少や難易度の高い試験で減少傾向という話が出ることもありますが、実際にはそれを裏付けるような明確な数字は見ることができません。
そうした意味では、将来的な不安を、歯科医師の減少傾向という観点から見出すことは難しそうです。
歯科医師の平均年齢の上昇と後継者問題
歯科医師全体としての平均年齢の上昇は、無歯科医地区の問題を考える場合においても、大きな課題です。
高齢化は日本全体としての問題ですが、歯科業界も例外ではありません。
平均年齢の上昇は、高齢になっても長く歯科医師を続ける人が増えているということでもありますが、その背景の一つとして、後継者問題があります。
開業している歯科医院の半数以上は後継者の確保に頭を悩ませており、特に地方の歯科医院となると、都市部に出ていく若い歯科医師に振り向いてもらうことが難しく、最終的には閉院となってしまいます。
後継者問題で地方の歯科医院がなくなっていくと、無歯科医地区が以上以上に増加するということになります。
結果として、地域の歯科医療の維持に大きな影響を及ぼすため、早急な対策が求められます。
歯科医師が不足している都道府県とは
歯科医師不足は、特に地方で顕著です。
都市部では歯科医院が多いため、患者の選択肢も豊富ですが、地方では歯科医師が不足している地域が多く、特に過疎地域では「無歯科医地区」が発生しています。
これらの地域では、通院するのに遠方まで移動しなければならず、患者にとって大きな負担となっています。
歯科医師不足の地域「無歯科医地区」の数で見ると、トップが北海道、ついで広島県と大分県、高知県、岩手県と続きます。
令和元年から令和4年のデータで最も無歯科医地区が増えたのは岩手県、ついで高知県であり、今後どう無歯科医地区の問題に取り組んでいくのかが、大きな課題となっています。
歯科医師不足時代への備え
日本全国レベルで見れば、首都圏である埼玉、千葉、東京、神奈川、そして関西では大阪が無歯科医地区ゼロとなっているものの、それらの都府県と他の道県の差が非常に大きいことが問題の核です。
そして、これから先、現在無歯科医地区に含まれていなくても、今後歯科医師が不足する時代が進んでしまった場合のことを考え、今から対策をとっておく必要があります。
地域医療の支援と後継者育成支援
地方の歯科診療を支援するために、地方への歯科医師の誘致するためのインセンティブの設定や移住支援制度の導入を進めることが求められます。移住支援金や税制優遇措置、開業支援などが考えられます。
遠隔診療やAI技術も最大限に活用しながら、地方の診療環境を改善していくことで、地方での開業を志す歯科医師を増やしていく必要があります。
同時に、後継者問題の解決のために、歯科医師のキャリアパスや独立支援の強化が大切です。若手の歯科医師に魅力的な地方での働き方の提供、開業促進の取り組みが求められます。
遠隔医療の導入
歯科医師がいない地域でも、遠隔で診療を受けられる仕組みを導入することも大切です。
初期相談や診断であればオンラインでも可能ですし、その後必要に応じて近隣の歯科医院へ案内することもできるでしょう。
オンラインの遠隔診療を可能とするシステムの整備や仕組みづくりも同時に求められます。
無歯科医地区への歯科開業|競合がいないというメリットも
無歯科医地区には「歯科」がないのですから、単純に考えて競合はゼロです。
そのため、無歯科医地区に開業した場合、その地区の住人はすべて、自院の患者さまになる可能性が高いといえます。
そういう意味では、競合との勝負が存在しないわけですから、地域でのマーケティング、WEBやSNSを活用した集患の必要性が薄いというメリットもあります。
地域で多くの歯科医院と争い勝ち上がっていくよりは、無歯科医地区で楽に集患を考えるのも、一つの選択肢ではあります。
ただし、初めから集患の最大値が明確であり、減ることはあってもそれ以上に伸びる、というケースが考えにくいという点では、将来に不安を抱える形にはなってしまうでしょう。
どちらがいいのか、どういう形を目指すのか、歯科開業時点でしっかりと事業計画を立てて考えておかなければなりません。
無歯科医地区まとめ
以上見てきた通り、地方や過疎地域での無歯科医地区の問題は深刻です。
そのため、歯科医師の供給を安定させるため、後継者の育成や新たな技術の導入、地域医療への支援が必要不可欠です。
高齢化社会においては、地域医療の重要性がますます高まるため、歯科医師不足への対応は急務となっています。
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