歯科開業 

歯科開業向けの物件はどう探す? 見落としがちなチェックポイントと失敗しない成功のコツ

歯科医院を開業しようと考えたとき、まず直面するのが「どこで開くか」という物件探しの壁です。

開業はゴールではなくスタート。

そのスタート地点をどこに置くかで、今後の経営が大きく左右されると言っても過言ではありません。

周囲の環境、賃料、内装、患者導線、競合医院の有無、などなど。見るべきポイントは多く、「完璧な物件なんてあるのか?」と不安になってしまう方も少なくありません。

また、家探しと違って“事業としての目線”が必要になるため、専門的な知識や判断力も問われるのが特徴です。

この記事では、歯科開業を成功させたいと願う方に向けて、物件選びで失敗しないためのチェックポイントと、実際の成功事例を交えたアドバイスを丁寧にお届けします。

読んでいただければ、「物件選びの軸」がきっと見えてくるはずです。

なぜ歯科開業の物件選びは難しいのか?

歯科開業 物件探しの難しさ

歯科医院の開業準備の中でも、物件選びはとりわけ慎重さが求められるステップです。

「とりあえず場所さえあれば始められる」と思いがちですが、実際には多くの落とし穴が潜んでいます。

ここでは、なぜ物件選びが難しいのかを3つの視点から見ていきましょう。

事業としての視点が必要になるから

個人の住宅選びと違い、歯科医院の物件は「事業所」です。

つまり、立地や家賃だけでなく、将来の収益性や地域での需要、患者様の導線などを複合的に考える必要があります。

例えば「家賃が安い郊外物件」に惹かれたとしても、周囲に住宅が少なければ患者様が集まりづらいという問題があります。

また、家賃が高くても人通りが多い商業地なら、集患のしやすさから結果的に黒字化しやすいケースもあります。

契約期間と初期投資のリスクが大きいから

医療用物件の契約期間は通常、10年を超える長期契約になることも多く、退去にも大きなコストがかかります。

また、歯科医院特有の設備工事(配管・ユニット設置など)には、内装費だけで1,000万円以上かかることも珍しくありません。

つまり、一度選んでしまったら簡単にはやり直せないという点が、物件選びをより慎重にさせる大きな理由なのです。

内装・導線に専門的な制約が多いから

歯科医院には、他のテナント物件とは違う医療特有の内装要件や制限があります。

例えば、レントゲン室の遮蔽設計や、ユニットへの配管、車椅子でも通れる導線など、設計面での自由度は意外と低いのです。

さらに、患者様が自然に移動できる導線設計や、スタッフが働きやすい裏導線なども必要になってくるため、単に「広さがある」「駅近」というだけでは選べません。

このように、歯科の物件探しには「事業性」「契約リスク」「医療設計」といった3つの大きなハードルがあります。

だからこそ、多くの開業医がこのステップで悩み、時間をかけるのです。

立地条件で見るべき5つのポイント

歯科開業 場所選び

歯科医院にとって「どこにあるか」は、集患数と直結する極めて重要な要素です。

ただ「人が多い場所」であれば良いというわけではなく、地域性や生活導線との相性まで加味した判断が必要です。

ここでは、開業予定地を選ぶ際に必ず確認しておきたい5つの立地条件について見ていきましょう。

1.住宅地か商業地か

まずは「周囲の属性」がどのような人々かを確認します。

住宅地であればファミリー層や高齢者が多く、リピーター重視の診療スタイルが合います。

一方で商業地の場合は、仕事帰りのビジネスパーソンや昼間に買い物をする層が中心となり、アクセス性や予約の取りやすさが重要になります。

2.周辺の競合(歯科医院)の数と立地

意外と見落とされがちなのが、近隣にある他の歯科医院との位置関係です。

単に「競合が多いか少ないか」ではなく、「どういった層を対象にしているか」「診療スタイルがどう違うか」まで見ておくことで、自院のポジショニングが見えてきます。

また、患者様は「近さ」だけで選ぶとは限りません。“通いやすさ”や“診療内容の違い”で差別化ができるかがカギになります。

3.通勤・通学動線にあるかどうか

毎日多くの人が通るルートにあるかどうかも大切です。

駅から自宅や学校・職場までの間にある医院は、“ついでに寄れる便利さ”で選ばれやすくなります。

朝や夕方の時間帯にどれくらい人が通っているか、実際に立って観察してみるのも良いでしょう。

4.駅近・駐車場・アクセス面の利便性

都心部であれば駅から徒歩5分圏内、郊外なら駐車場の有無は必須条件になります。

「通う手間がない」「迷わない」「雨でも来やすい」といった、患者様目線での利便性が評価につながります。

駐車場の台数も重要です。台数が少ないと、せっかく来た患者様が離脱してしまうことも。

5.地域の将来性(再開発や人口動態)

今だけでなく、「5年後、10年後にも患者様がいるか」を考えることも大切です。

市区町村の人口動態や再開発計画などをチェックし、将来も継続して需要が見込める場所かを見極めましょう。

人口が減少傾向にあるエリアでは、新患獲得が難しくなっていく可能性もあります。

これらのポイントを踏まえて、単なる“地価”や“見た目”ではなく、“患者様が通う理由”があるかどうかを見極めることが、後悔しない物件選びにつながります。

物件内部のチェックリスト

歯科物件チェックリスト

物件を外から見るだけでは分からないのが「内部の条件」です。

どれだけ立地が良くても、内装の構造や設備の制限が大きい場合、開業後に大きな不都合が生じることもあります。

ここでは、歯科医院を開くうえで、物件の内部で必ずチェックしておきたいポイントを整理しておきましょう。

ユニット設置に必要なスペースの有無

歯科ユニットは1台あたりおよそ3〜4畳のスペースが必要です。

さらに、患者様やスタッフがスムーズに移動できる動線を考慮すると、単に「広いだけ」では不十分です。

複数台のユニットを導入する予定であれば、配置図を想定して現地で実際に動いてみるのもおすすめです。

天井高・配管・電気容量の条件

歯科医院では特殊な配管工事や医療機器のために、天井高や床下スペース、電源容量にも制限があります。

特にレントゲンやCTなどを導入する予定がある場合、遮音や遮蔽、配線の自由度が取れるかを確認する必要があります。

また、分譲マンションや商業ビルでは建物の構造上、水回りの位置が固定されているケースもあるため、設備工事に大きな制約がかかることもあります。

レントゲン・CT室の配置余地

レントゲン室は、X線の遮蔽対策が必須なため、どこにでも設置できるわけではありません。

建築基準法や医療法に基づく設置基準もあるため、厚生局の指導内容にも合致するかの確認が不可欠です。

壁を遮蔽材で補強する場合、その費用も予算に計上しておくと安心です。

トイレ・待合室など患者様動線の設計

「入りやすく、出やすい」動線は患者様のストレスを減らします。

受付から待合室、診療室までがスムーズにつながっているか、途中で動線が交差しないかなどをよく確認しておきましょう。

また、トイレの場所やバリアフリー対応も、高齢者や家族連れが安心して来院できるかどうかに直結します。

一度内装工事が終わると、大きな変更は難しくなります。

だからこそ、物件内部の構造や仕様をしっかりチェックし、「ここで本当に長く診療できるか?」という視点を持って判断しましょう。

賃料・契約条件で気をつけること

物件の賃料や契約内容は、開業後の経営に直結する大きな要素です。

初期費用に目が向きがちですが、ランニングコストとして長期的に負担となるため、「いくらで借りるか」だけでなく、「どんな条件で借りるか」も十分に検討する必要があります。

賃料と売上予測のバランス

家賃が安ければ助かる――これは確かに事実です。

しかし、あまりに安い場合は「人通りが少ない」「建物の老朽化が激しい」などの理由があるかもしれません。

逆に家賃が高すぎても、開業初期の経営を圧迫するリスクがあります。

目安としては、想定月商の10~15%以内に収まる賃料が理想です。

売上予測とのバランスを見て、数値的に持続可能な物件かどうかを冷静に判断する必要があります。

定期借家契約か普通借家契約か

「借家契約」には大きく分けて2種類あります。

  • 普通借家契約:借り手の権利が強く、更新も基本的に可能。

  • 定期借家契約:契約期間満了で自動的に終了。再契約は貸主との合意が必要。

歯科医院のような長期運営が前提の事業では、定期借家契約はリスクとなる場合もあります。

更新時に賃料が大幅に上がったり、再契約ができずに立ち退きを迫られたりといった可能性も考えられるため、契約形態は必ず事前に確認しておきましょう。

原状回復義務と内装制限の内容

テナント契約で見落としがちなのが、「退去時の原状回復義務」です。

歯科医院では内装に多額の費用をかけるため、退去時に“原状に戻す”となると、数百万円規模の負担になることも。

さらに、建物によっては壁に穴を開けてはいけない、水回りの変更不可など、内装に関する制限が契約に含まれている場合もあります。
図面をもとに、どこまで改修できるのか、どこに制限があるのかを事前に管理会社と共有することが大切です。

契約書は小さな文字でびっしりと書かれていることが多く、つい読み飛ばしてしまいがちです。

しかし、読み込むことで後のトラブルを未然に防ぐことができます。弁護士や専門家に一度チェックしてもらうことも検討しましょう。

成功している開業医の物件選び実例

賃貸・契約条件注意点

理論だけでなく、実際にどのような物件を選び、どのような工夫をしたのか──それを知ることは、物件選びにおいて非常に大きなヒントになります。

ここでは、2名の開業医の実例をもとに、それぞれの立地や選定理由、成功のポイントを紹介します。

A医師(都市部×商業地)のケース

東京都心の駅近テナントで開業したA医師は、あえて競合が多いエリアを選択しました。

決め手は「周囲の歯科医院が“予約の取りづらさ”を抱えていたこと」。

つまり、“患者様の受け皿”になれる余白があると判断したのです。

また、商業施設に隣接していることから、仕事帰りのビジネス層や買い物中の親子連れなど多様な層の来院が可能で、平日夕方以降や土日の稼働率が非常に高いとのこと。

家賃は決して安くありませんが、「回転率」と「利便性」でカバーできている好例と言えるでしょう。

B医師(郊外×住宅地)のケース

一方で、郊外の住宅街に開業したB医師は、「競合がいないが人口密度は高い地域」を選びました。

最寄り駅からはバス便が必要な立地ですが、ファミリー層が多く、高齢者も多い地域だったため、ホームドクターとして定着しやすいと判断したのです。

また、駐車場を4台分確保できたことで、車での来院が前提となる地域性にマッチ

外装も明るい色合いにするなど、「通りかかったときにふと気になる存在」を目指したとのことです。

来院の約8割がリピーターで、口コミによる紹介も増えており、地域密着型医院として安定した経営を築いています。

どのような点にこだわったのか

両医師とも共通して重視していたのが、「ターゲット層に合った立地と導線」です。

A医師は“利便性とアクセス”、B医師は“生活圏と親しみやすさ”を重視し、それぞれの地域性を活かして集患につなげています。

単に「安い・駅近」ではなく、自分の目指す診療スタイルに合う物件かどうかを見極めた結果、成功に至ったのです。

物件選びをプロに頼るという選択肢

歯科開業の物件選びは、自力で調べて選ぶには情報が限られすぎていることもあります。

候補は出てきても「この場所でいいのか?」「将来的に問題はないか?」と悩んでしまうものです。

そんなときに検討したいのが、医療に特化した不動産業者や開業コンサルタントとの連携です。

医療専門の不動産会社の活用

医療テナントを専門に扱っている不動産会社は、一般の不動産サイトでは出てこない非公開物件を多く保有しています。

また、医療業界特有の制約(配管、天井高、耐荷重、遮蔽など)を熟知しており、開業向けに最適化された物件を紹介してくれるのが魅力です。

さらに、近隣の診療科目の分布や住民層など、マーケティング的な観点も交えて提案してくれることもあります。

内装会社・開業コンサルとの連携

物件選びの段階から、歯科内装に詳しい業者や開業コンサルタントに相談しておくと、後の工程が格段にスムーズになります。

例えば、「この間取りならユニットは3台まで」「この場所は配管工事が大がかりになる」など、契約前に気づける情報がたくさんあるのです。

また、コンサルタントは資金調達や許認可申請、内装の設計監理まで広く支援してくれることもあり、不安が多い初開業においては非常に心強い存在です。

見逃しがちな「開業後の動線」視点

プロの視点で特にありがたいのが、「開業後の生活や導線を想定した視点」です。

例えば、スタッフの休憩スペースや導線の確保、バックヤードの収納量、管理業務の動線など、普段の診療に直接影響する細かい部分まで指摘してもらえることがあります。

これは、実際に多くの歯科医院の開業や運営を見てきた人だからこそできる助言です。

自力での物件選びも不可能ではありませんが、時間や情報に制限がある中ではリスクも伴います。

後悔しないためにも、信頼できるプロと連携しながら進めることをぜひ検討してみてください。

まとめ|物件探しの判断軸を持とう

歯科医院の開業は、多くの決断の連続です。その中でも「どこで開業するか」という物件選びは、医院の将来を左右する大きな分岐点となります。

立地の魅力、間取りや設備、周辺の競合、契約条件──見るべき点はたくさんありますが、何よりも大切なのは、「自分がどんな医院を作りたいのか」というビジョンに合っているかです。

駅チカで便利でも、目指すのが地域密着なら違和感が生じるかもしれません。

逆に郊外でも、患者様との距離が近い診療をしたいなら、それは大きな強みになるでしょう。

自分の診療スタイル、患者層、働き方、それらすべてに照らし合わせながら「この場所で続けていけるか?」を問い続けること。
それが、物件探しで後悔しないための一番確かな指針になります。

よくある質問(FAQ)

歯科LP FAQ

Q1. 歯科開業で駅チカは本当に有利?

A. 駅チカは「アクセスの良さ」や「視認性」に優れるため、特に都市部では有利に働くことが多いです。
通勤・通学の途中に立ち寄れる利便性は、多くの患者様にとって大きな魅力となります。
ただし、賃料が高く競合も多いため、ターゲット層や診療方針に合うかどうかを冷静に判断する必要があります

Q2. テナントと戸建て、どちらが良いのでしょうか?

A. それぞれにメリットがあります。
テナントは初期費用が抑えられ、すぐに開業しやすいのが利点ですが、契約条件や制約があることも
一方、戸建ては自由度が高く資産にもなりますが、土地探しや建設に時間とコストがかかります
診療スタイルや経営計画に応じて、どちらが適しているかを検討しましょう。

Q3. 物件を見に行くとき、何を持参すべき?

A. 測量用メジャー(またはレーザー距離計)、図面(可能であれば)、そして医院レイアウトのラフ案などを持っていくと、より具体的に物件の適性を判断できます。
また、スマートフォンでの写真・動画撮影も必須です。
細かい天井高や配管スペース、コンセント位置など、あとから見返せる記録を残しておくと、施工業者や内装担当者との打ち合わせがスムーズになります。